泣くロミオと怒るジュリエット

「泣くロミオと怒るジュリエット」の感想を地道にポチポチ打っていたら、新型コロナウイルスの影響で2月28日以降の東京公演、すべての大阪公演が中止になってしまった。非常に悲しい。

私は運良く(この作品に関しては)中止になる前に観劇することが出来た。たくさん気持ちが揺さぶられた舞台だったので純粋に感想を残しておきたいと思ったのと、いつか再演してくれたらもう一度足を運び「あの場面こういう意味だったのか!」「このシーン好きだった!」と思い返せたらいいなと思ったので、今更ながら感想を書く。

 

でももしいつかロミジュリの再演が決まったとしても、誰一人欠けることなく全く同じ演者と同じスタッフで、全く同じ気持ちで臨むことは難しいだろう。全員の予定だって、劇場の予定だって、使えるお金のことだってある。

「もう一度やる」からって、すべてが「中止前に戻る」わけではない。

舞台やコンサートなどの実際に現場に足を運ぶようなエンターテイメントは、その一瞬にしか存在しないものなのだと常々思っていたけれど、それがこうも切なく感じるのが辛い。観に行くだけの私でもこう思うのだから、作っている側は今回相当なやるせなさやご苦労があったと思う。気持ちの面だけでなく、それを仕事にしている人がいるという事も含め。自粛への賛否とは関係なくこういう事になった事実が本当に気の毒だ。

 

状況を鑑みて無料配信などの対応をしてくれることはうれしいしありがたい。今まで見たこと無かったものを見られたり、新しいものを知れるキッカケになったりもした。めちゃくちゃ楽しんでいる。むしろ見たいのがたくさんあって時間が足りないくらい。

(これが“当たり前”になって“無料”が“基準”にならなければいいなとは思うけど)

 

だけどやっぱり私は生で見る舞台やコンサートが一番好きだ。

その時その場所でしか感じ取れないものがある。演者の熱量、命が削れていく様を見ているような不思議な感覚、会場の空気、観劇へ向かう時のワクワク感や観劇後の高揚感と疲労感。私は今後もこれらを体験するために、お金を払って、足を運びたい。

その為にも、どうか今回中止になった舞台やコンサート、その他のエンターテインメントの類のものの負担・負債がすこしでも少なくなりますように。

そして、どうか早く事態が収束して、舞台であれコンサートであれまた幕が開けられる環境と、資金と、人員確保と、気持ちと…、いろんな事がうまく行きますように。

願うことしか出来なくて申し訳ない。いつかの為に今は粛々と自分の仕事と生活をしていきます。

 

 

むちゃくちゃ前置き長いやんけ。

以下、ネタバレを含む、完全に自分のための「泣くロミオと怒るジュリエット」感想です。

 

  

桐山ロミオの話をしたいのは山々なんですけど、

 

ひとまず、ベンヴォーリオの話をさせてくれ!!!!!!!

 

橋本淳さん演じるロミオの親友・ベンヴォーリオがとても良かったのです。

最初から最後までずっと切ないのだけれど…。

 

【ベンヴォーリオの恋心】 

ロミオ、ベンヴォーリオ、マキューシオは男三人仲良しトリオ。

未読のため原作ではどう書かれているのか分からないが、この舞台ではベンヴォーリオのロミオに向けられた恋心(と私は解釈した)が描かれていて、それが実に切なかった。

一幕からチラチラと見え隠れするベンヴォーリオの恋心。

マキューシオに「おまえ、女いないの?」と聞かれて「見ているだけでいいんだ」と答えながら遠い目をするベンヴォーリオ。その視線の先にはロミオがいたんだと時間が経つにつれ段々と気が付いてくる。最初はロミオに気があると思わせず徐々にこちらが気付くようにした演出と橋本さんの演技に感服だった。

 

序盤でロミオが二人に「俺らに明日はあるんか?」と問う。

何も答えてくれないベンヴォーリオだったけど、のちにダンスホールで出会ったジュリエットだけは「明日はきっとある、私はそう信じてる」と答え、ロミオはそんなジュリエットに恋をする。

もし、ジュリエットより先にベンヴォーリオが「明日はあるよ」って答えていたら二人の関係はどうなっていただろう。同性だから、いつも三人だから、親友だから、様々な理由によりずっと変わらずにいたかもしれないけど。

親友だから越えなかったけど、越えなかったから親友でいられたんだよな、この人たちは。

 

ちなみに、そんなベンヴォーリオにマキューシオは突然「お前、俺が死んだら泣いてくれるか?」と問います。

え、マキューシオからもベンヴォーリオに矢印出てた…?

そうすると、マキューシオ→ベンヴォーリオ→ロミオってなるんだけど、それはいくらなんでも設定盛りすぎじゃない?と思いつつそこの詳細が知りたくて仕方ない。

ちなみにベンヴォーリオはマキューシオと二人で話している時、ロミオのことは「親友」、マキューシオのことは「悪友」と言っていた。「悪友」って「交際して身のためにならない友人」って意味があるから、そこに対する「泣いてくれるか?」って言葉だったのかな。マキューシオは「悪友ではなく親友」と言ってほしかったかもしれないし、どこかでベンヴォーリオからロミオへの想いに気付いていたかもしれない。

  

そして、マキューシオがティボルト(ジュリエットの兄)に刺されて死んだ翌朝のこと。

「俺は朝までマキューシオのことを考えて眠れなかった。おまえのことだから、バケツ一杯くらいの涙を流しただろ?」というベンヴォーリオの問いかけにロミオは気まずそうな表情を浮かべてしまうのだけど、それだけでベンヴォーリオは気付いてしまう。ロミオのことよく見てるから、ずっと知ってるから、ちょっとした表情の歪みで「そうではない」と察してしまうの、切なすぎるでしょ…。

親友マキューシオがティボルトに刺された後、ロミオはティボルトを刺し殺している。それなのに、親友を殺したティボルトの妹であるジュリエットとその夜に結ばれていたロミオ。それを知った時のベンヴォーリオは相当酷い裏切りだと思っただろうよ。そんなのありか、って。

この時すでにベンヴォーリオにとってはマキューシオのこともロミオのことも失ったも同然だったんだと思う。

 

そういえば、「俺が死んだら泣いてくれるか?」と言ったマキューシオを想って、ベンヴォーリオは泣いたのかなぁ。

 

犯人とされているロミオが身を隠している場所に会いに行ったベンヴォーリオ。そこでベンヴォーリオはロミオへ「ジュリエットが死んだ」と告げる。

ロミオは信じられずに泣きながら、マキューシオが死んだ夜にあった事=初めて抱いたジュリエットのことを細かく説明するんですよ。どんな肌だったか、どんな身体つきだったか、ぬくもりも感触も、全部!!ベンヴォーリオの前で!!

自分に恋心を抱いてるなんて思ってないんだろうし、ジュリエットへの想いが募りすぎて止め処なく溢れてしまうから言ってしまったんだろうけど、そんなんベンヴォーリオからしたら辛すぎるでしょ…!!やめてあげてくれ……、ずっと「ロミオは正当防衛でティボルトを刺したんだ」って言ってくれたのはベンヴォーリオだったんだぞ……、、!!!(辛くなってきた)

 

その後ベンヴォーリオはロミオに「お前を恨めたらいいのに!俺はお前のことっ…!」まで言うんですよね。でもその言葉はロミオの「言うな!」によって遮られる。

ベンヴォーリオの気持ち、ロミオは薄々気付いていたのかな。「親友」という形を変えたくなくて遮ったのかな。

ロミオに「ベンヴォーリオから何て言われると思ってた?」って聞きたい。

こっちは完全に「(俺はお前のこと)好きなんだ」が入ると思ってるんですけど、ロミオは「(俺はお前のこと)恨めない」とか「(俺はお前のこと)殺せない」とかそういう言葉が来ると思ってたかもしれないなって考えたりした。そうだとしたらつまりは「恨んでくれていいよ」と思っているという事になる…、まじか……。

 

このすぐ後にロミオはその場を離れるんだけど、そのシーンがまた切ない。

ロミオとジュリエットは何度も何度も振り返ったりもう一度手を取り合ったりして離れるのに毎回時間がかかってたんだけど、ロミオとベンヴォーリオが離れる時は、ロミオは一度も振り返らないんだよね…。ベンヴォーリオはロミオの方を見るのにさ…。ロミオにとっては隣にいるベンヴォーリオよりも死んでいるジュリエットに会いたくて仕方ないんだよ、振り返る暇も無いくらい。その対比がまた切ない。

 

ベンヴォーリオは最後のシーンで喪服を着て出てくる。黒い傘をさしながら。

これからも生き続ける人だけが着る、喪服。

好きな人も、大切な親友(悪友)も、いなくなってしまったけど生き続けていくベンヴォーリオを思うととっても辛かった。

これからのベンヴォーリオにとっての希望は何になるのか、少しもわからなかった。

 

 

【舞台の色彩】 

今回の舞台ヴェローナは鉛色の街で、全体的にくすんだ色合いだった。

その中でハッキリとした色彩を感じたのはダンスホールのシーンと一番最後のシーン。

ダンスホールではバキバキにPOPな色彩で楽しげな様子が表現されていて、廃れたこの街でハッキリとした色彩をもったこの場所は確実に血が通っていた。

それに対し一番最後のシーンでは、結婚式を挙げる二人の白、二人の死を悲しむ黒、一面に広がる赤。この3つの色で表現されていてとてつもなく強烈だった。

このシーンを目の当たりにした時に「西洋のキリスト教絵画(受胎告知など)では「赤」は血を表す」という話を思い出して、とてつもなく悲しかった。だってこんなの残酷だ。祝福されて当然の結婚も、悲しまれて当然の死も、すべて血が無いと成り立たないのか、って思ったから。

でももしかしたら、ロミオとジュリエットの二人だけには、この赤も祝福の花道に見えていたかもしれない。二人はいつだって周りのことなんか見えてなくてずっとお互いの事しか見てなかった。そこがとても浅はかで、若くて、どうしようもないから憎めないとこだった。

 

  

【「明日を信じる」ジュリエット 「希望」のロミオ】 

ずっと自身が無く不安ばかりで「明日はあるんか?」と問うていたロミオ。

ロミオのことを「希望」だと言ったジュリエット。

この作品に出てくる人たちはみんな「明日を生きるための希望」を求めてた。

 

この作品では誰の想いも現実世界では成就しない。

ロミオとジュリエットも、

ベンヴォーリオとロミオも、

ソフィアとティボルトも。

ソフィアとジュリエットでさえケンカしたままだった。

みんなが求める「明日を生きるための希望」は、時代でも環境でも格差でもなく、明確な「誰か」だと思った。

成就しないから求め続ける。求め続けても、もう成就しない。

 

 

悲劇のお話。

 

 

 

【桐山ロミオ】

 「なんでも器用にこなす癖やめや!」

 

以前お芝居とは全く関係のないところで重岡くんが桐山くんに言った言葉である。まったくだ。

普段はあんなに経験値が高そうな、「いろんなこと知ってます」「なんでも対応できます」みたいな感じなのに、ロミオになった瞬間に純粋で何も知らない真っ直ぐな男の子になる。器用なんだ、とにかく。

しかも舞台を終え、最後の挨拶の時には完全に座長の出で立ちでそこに居る。

ずるい、頼もしい、かっこいい。

 

柄本くん、八嶋さん、高橋さん、橋本さん、段田さん、・・・錚々たるメンバーの中でお芝居する桐山くんがとてもかっこよかった。

物理的には横浜アリーナより全然近い距離だったけど、いい意味でとても遠くに感じた。私がアイドルに求める距離感はこれくらいが理想だ。

 

今回の演技も、この桐山くんの姿も、「泣くロミオと怒るジュリエット」という作品も、見れるはずだったのに見れなかった人がいると思うと悲しい。言葉もない…

だからどうか、桐山くんの演技やかっこいい姿を、これからもたくさん見れる機会があることを強く願ってます。

 

泣くロミオと怒るジュリエットの皆様、大変お疲れ様でした!